積読層の知質学的研究

映画と地質学と面白いことにおぼれる日々。

ぼくの「日本海大海戦」―ちょっとクサい?日本の運命を変えた戦いの物語

No.19 日本海大海戦 ★★★☆☆

 

監督:丸山誠治

脚本:八住利雄

音楽:佐藤勝

特技監督円谷英二

出演:三船敏郎加山雄三仲代達矢笠智衆松本幸四郎(八代目)

公開:1969年8月13日

上映時間:128分

あらすじ

清国で発生した義和団事件が収束したのち、ロシア軍は満州に兵を留め置き、侵略をせんとしていた。日本からも再三の抗議を行うが、解答は無く、次第に両国間の関係は悪くなっていった。1904年2月5日、遂に日露は断交し、戦争が始まる。目指すは旅順陥落。陸からは乃木希典(笠)が、海からは東郷平八郎(三船)が挑む。一方、ロシアからは世界最強の艦隊・バルチック艦隊が太平洋へ出発しようとしていた。

 ●あこがれの『日本海大海戦』

 小学生の頃、僕は特撮映画や時代劇映画が好きであった。東宝の怪獣たちに拍手し、東映の赤穂浪士たちに涙を流した。父の書棚にあった『円谷英二の世界』という本を持ち出しては、レンタルビデオにも無いような古い作品をいつか見るのだ、と夢想していた。夢想しすぎて漫画を描いたこともある。きっと、押し入れのどこかで化石になっているのであろうが、よく覚えている2つの作品がある。それは両方とも戦争映画を元にしていた。ちょうど『学習漫画日本の歴史』なんかを読んで、第2次大戦のことなどを知り始めたころだろう。それらのタイトルは『連合艦隊司令長官 山本五十六』、そして『日本海大海戦』である。

 観たこともないのに「日本海海戦」や「山本五十六」に憧れたのも不思議であるが、確かに当時の僕はこれら二つがどうしても観たかったのだ。当時はまだDVDではなくビデオばかりで、近所のレンタルビデオ店にもなぜこの作品が?という珍品ビデオがあった(珍品とは言いにくいが、『日本のいちばん長い日』があったのを覚えている)。そういった作品群のなかにも無かったのがこの2作品であった。

●東宝キャスト総出演の「8・15」シリーズ第3弾

 本作は当時、東宝が終戦記念日前後に公開していた戦争(反戦)映画シリーズである、「8・15」シリーズの3作目である。1作目は愛すべき岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』であり、2作目は前述の『連合艦隊司令長官 山本五十六』だ。シリーズ初の太平洋戦争を扱わない作品で、割と(というか随分と)娯楽要素が強い。出演陣の顔ぶれでも娯楽性は容易に感じられる。『日本のいちばん長い日』のヒットから、とても豪華なスタアたちが集結している(ゴジラの中の人・中島春雄までいる)。そんななかで、平田昭彦佐藤充、佐原謙二らの姿は特に目につく。いや、僕だから目につく。彼ら3人が大好きなのです。

 笠智衆はこの時からすでにおじいちゃん役をやっていて、もしかして若い時が無かったのでは!?なんて阿保みたいなことを考えてみたり・・・。

 加山雄三は広瀬少佐役で出演。前半は杉野と二人でかなりの尺を割かれている。やはり当時の作り手たちの世代がよく反映されていると思う。現在であっても日露戦争には広瀬少佐の悲話は付き物であるが、当時の製作陣で年配の人たちは子供時代に、おそらく雑誌や歌なんかでよく眼にし、耳にしたのではないだろうか(子供時代が明治だったと言ってるんじゃあないぜ)?少なくとも今の我々よりは広瀬少佐のエピソードに思い入れがあるはずだ。

 それにしても加山の演技はあんまり上手では無かった。仲代との会話では粗が目立ちます(笑)仲代が上手いだけなのか?そんな加山雄三もいいんですけどね!

 そして、松本幸四郎は天皇を演じている。『日本のいちばん長い日』では昭和天皇を演じた(顔は映らないけど)。本作では気品を感じる素晴らしい演技を披露している。

●「クサい」ストーリーには閉口

 前述通り、娯楽色が強い。おそらく子供の観客を動員するためなのだろう。物語の筋はほぼ我々がよく知る日露戦争である。「よく知る日露戦争」が本当に史実かどうかは知らないが・・・。

 わりと小ネタを挟んでおり、これには感心した。宮古島の漁民が電報を打つために石垣島まで船をこぎ続ける話などは興味深かった。それから敵側をそれなりに描いているのも良い。まぁ、この時代の会戦(陸・海関係なく)は武士道(騎士道)精神に則っているので、描かないことには興醒めである。例えば、降伏のシーンや東郷と敵司令官が病院で対面し、互いを称え合うような感動のシーンは本作にとって重要である。

 しかし、「8・15」シリーズということでかなり「クサい」部分がある。東郷の「何かに勝たされていると思わなければならない」や山本海軍大臣の「(いつか必ず)アメリカと戦争するだろう」というような台詞が「日本人は太平洋戦争で大きな間違いをした。このときどうして勝って兜の尾を絞めなかったのか・・・反省!」というメッセージをぷんぷんと臭わせている。

 アジア人が白人、それもバルチック艦隊を有するロシアに奇跡的に勝った。これはアジアの国々―欧州列強の支配下に合った国々―では大きな希望になったという。反面、日本人と軍部は勝利の幻想に飲み込まれ、後年、敵対した国と自国の力量を見誤っている。つまり、日中戦争や太平洋戦争の過ちである。これらは日露戦争の勝利に起因すると言っても良いかもしれない。その過ちで我々は自らの国を亡ぼしかけたのだから、この戦いは日本の運命を変えたと云える。

 しかしながら、この作品でそういったメッセージを発するとき、さも分かりやすくポンと出されては興が醒めるのである。しかも、明治という時代の気質がメッセージに合わないため、普通の反戦ならいざ知らず、太平洋戦争を匂わせる反戦はテーマとして成り立たないのだ。

●特撮の神様、最後の冒険

 本作は特撮の父・円谷英二の最後の特技監督作品である。円谷はこの後、大阪万博の三菱未来館用の映像を撮影、『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』の監修としてクレジットされたのが生前に公開された映画では最期である。1970年1月25日に亡くなっている。本作の特撮は実によくできていて、ラストの日本海海戦のシーンでは思わず画面に釘付けとなってしまう。この迫力満点の海戦シーンを見られるだけで満足である。

 さて、本作には東郷が乃木に会いに来て、作戦の貫徹・成功を信じていると鼓舞するシーンがある。なんだか児玉参謀の役割が取られてしまったなぁ・・・と一人で笑っていた。だが、我が傑作漫画『日本海大海戦』には海戦中に東郷が死んでしまうというトンデモ描写があるのだ。なんだか凄いことになってるぞ。でもそれで良い。そう、小さいことを気にしたら負けなのだ!東郷さんが会いに来て、児玉さんが居なくたっていいじゃあないか!

 

鑑賞:2013年6月13日

文責:苺畑二十郎 2013年6月13日