積読層の知質学的研究

映画と地質学と面白いことにおぼれる日々。

ぼくの「シャイニング」―キューブリックが描くものはぶれない!

No.28 THE SHINING シャイニング ★★★☆☆

監督:スタンリー・キューブリック

原作:スティーブン・キング

脚本:スタンリー・キューブリック/ダイアン・ジョンソン

出演:ジャック・ニコルソン/シェリー・デュヴァル/ダニー・ロイド/スキャットマン・クローザーズ

公開:1980年5月23日(アメリカ) 1980年12月13日(日本)

上映時間:119分(国際版) 143分(通常公開版)

あらすじ

トランス一家は休業中のホテルの管理人として、コロラドの山奥で5か月を送ることとなる。閉鎖的な日々の中でジャック(ニコルソン)は次第に狂気の様を見せていくのであった。それを察知するのは息子のダニー(ロイド)。彼は不思議な力で自分に迫る未来が分かるのである。シャイニングとしての能力をもつダニーは果たして母と共に、ジャックの魔手から逃れられるのか。

 ●リアルでないものは大っ嫌いなのか

 ホラー小説の世界的権威であるスティーブン・キングの作品を原作としながら、本作はほとんど別作品の趣があり、キングが長い間批判していたことで有名である。原作の『シャイニング』ではダニーやハロラン(クローザーズ)の能力が事件の解決に大いに役立つそうである。また、ジャックがホテルの邪悪な意思に取り込まれるのももっとファンタジックに描かれるようである。

 本作においてはそれらの描写はお飾り程度である。ハロランはホテルに来てすぐに殺されるし、ダニーと母が助かるのも超能力のおかげではなく機転を利かせたからである。ジャックが狂気の様を見せるのも、邪悪な意思によるというよりも自分の置かれた状況や精神状態が不安定なことによっているように見える。

 キングの作品としての『シャイニング』はまさにホラーであろう。超能力や悪霊が出てくることからもダークファンタジーといえるのかもしれない。対してキューブリックの『シャイニング』は極めて現実的な設定のもと物語が進んでいく。どうもキューブリックは超自然的なものが嫌いらしい。或いはそういったものをエッセンスではなく、物語の主軸として描くことが嫌なのではないか。キューブリックが着目したのは原作の「父親が狂乱して家族を襲う」というプロットだけのような気がするのだ。彼が描きたかったのはホラーではない。人間の「狂気」だ。

キューブリックの主張はぶれない

 キューブリックが一貫して描いてきたメッセージとして人間の「狂気」というものがある。精神的な暴力と言ってもいいかもしれない。前回レヴューした『羅生門』でいうところの「人間誰しもが持つ(心の)醜さ」である。精神が完全にこれに蝕まれたとき、人間は何をするか分からないのである。

 『博士の異常な愛情』、『時計仕掛けのオレンジ』、『フルメタルジャケット』・・・これらの作品では際立って人間の「狂気」が描かれている。そして、それぞれの設定もほとんど現実的であって、飛躍した世界の物語では決してない。

 本作においても同様である。家庭における人間の「狂気」がここでは描かれている。ジャックは小説家らしい。なかなか大成しない職業であろう。実際、彼は食いつなぐための職に不自由らしい。家族を養わないといけないのにうまく事が運ばない彼は、わりと最初のほうから精神的に追い詰められている気がする。ウエンディ(ディヴァル)も良き妻、良き母であるようだが夫への依存性が大きい。しかも、ジャックが変わり始めてからのヒステリックな姿を見ると、彼女も精神的に弱そうなのが分かる。どうも一家は初めから精神的にギリギリセーフなラインに立っていた気がするのだ。

 拍車をかけたのは閉鎖的な空間であるホテルの存在である。悪霊以前にこの籠城状態がジャックのギリギリだったラインをぶつりと切ったのではなかろうか。そして恐ろしいことに彼らの「狂気」の姿は我々が等しく、普遍的に持っているものなのである。たぶん、それを気付かせることがキューブリックにとってのホラー演出なのであろう。

●映像の美しさがスゲエ

 キューブリック作品を傑作足らしめているのはストーリーではない。画面の美しさである。『2001年宇宙の旅』や『時計仕掛けのオレンジ』では画面ごとに絵画のような美しさで描かれる。前者では宇宙空間に浮かぶステーションの場面が、後者では冒頭のミルク・バー?で仲間たちが集っているシーンが最高にしびれる。そのとき苺畑に電流奔る・・・!ってな感じにしびれる。

 本作では、冒頭の空撮やホテル内の広い廊下、ダニーがジャックから逃げる迷路の場面など思わず唸ってしまうほどの美しいシーンがやっぱり多い。こだわりにこだわるキューブリック監督らしい演出ばかりである。

 こだわると言えば、本作はとあるシーンのテイク数がギネス記録になっているほどである。それはダニーとウエンディが管理人のもとへと逃げてきて、そこで管理人からダニーがボールを受け取るというシーンであり、撮影には132テイクが費やされた。驚異的である。しかし、そんなシーンあったかしら?そう、僕が観ていてもそんなシーンは無かった。実はこのシーンはプレミア上映の後にカットされた。132テイク撮り直したシーンをためらいなくカットしたのだ。これが真のこだわりというもの。スゲエ!

●結局、何だったのか・・・

 さて、ラストシーンを思い出していただきたい。ホテルに飾られた古写真のひとつ、1924年(21年だったっけ?)の7月4日の写真のなかにジャックの姿がある。これっていったいどういうことなの・・・?ジャックは悪霊?のグレーディー(フィリップ・ストーン)と出会ったとき、「ずっと前からあなたが管理人だ」と言われる。おそらく、写真のジャックのことを知っているからこのような発言がなされたに違いない。すると、写真の人物がホテルの悪霊の根源的なものなのであろう。彼はジャック本人なのであろうか?死後、ジャックが写真=悪霊の世界に取り込まれたと考えるべきか。或いは写真の人物が転生したのが現在のジャックなのか。

 おそらくキングの原作では何の疑問を持たないであろう部分が、キューブリック作品では疑問になってしまっている。ジャックの狂乱が、『人間のもつ「狂気」の発現』と並行して『ホテルの悪霊による仕業』という描き方もされてしまったのでややこしくなり、後者の設定がうまく解消されていない。結局、ホテルの悪霊は何が原因だったのかもよく分からないまま終わってしまう。すごく、モッタイナイ!

 しかし、ジャック・ニコルソンの狂人演技は映画史上ピカイチである。正直、『バットマン』で演じたジョーカーよりも不気味。彼だからこそ成立した役かもしれないね!

 

鑑賞:2013年7月2日

文責:苺畑二十郎 2013年7月2日