積読層の知質学的研究

歩いて、見て、知って、感じたことども。

ぼくの「暗殺」―清河八郎を中心に描かれる幕末の男たち

No.26 暗殺 ★★★☆☆

監督:篠田正浩

原作:司馬遼太郎『幕末』

脚本:山田信夫

音楽:武満徹

出演:丹波哲郎岩下志麻木村功/岡田英次/佐田啓二

公開:1964年7月4日

上映時間:103分

あらすじ

 幕末――黒船来航以来、国内は大いに混乱していた。外国人を国内に入れるなと主張する朝廷をよそに開国を行った幕府。尊王攘夷か、佐幕か、或いは第三の道か・・・。この国の未来を切り開こうとする若者たちは駆け抜ける。出羽出身の浪人・清河八郎丹波)もその一人であった。

 浪士組結成という事件を軸に、尊王攘夷派の清河、彼に疑問を持つようになった石坂(早川保)、幕府の命で清河の命を狙う佐々木唯三郎(木村)、そして坂本龍馬(佐田)・・・彼らの駆けた道を描く。

 清河八郎という男

 幕末という時代には様々な英雄たちが登場した。それも日本全国にである。おそらく、国体の危機という緊急事態に、各地の秀才たちがそれぞれに感付き、何か行動を起こさねばと思い立った結果であろう。大藩からも小藩からも、傑物が現れた。

 この清河八郎もそういった男たちのひとりである。彼は出羽の浪人であった。千葉道場で北辰一刀流の免許皆伝を得、昌平黌で学んでいる。文武両道に秀でているさまがこれらの経歴だけで分かる。しかし、そのためか性格に難があり、自分以外の人間を格下に見る傾向が強かったようである。諸国を廻った際の旅行記『西遊草』には各地で出会った志士たちの評があるが、辛辣であるそうだ。

 人並みにしか幕末を知らない僕にとっては、彼は「浪士組を結成して上洛したが、すぐに江戸へ帰った男」というイメージである。新選組に関連したドラマ・映画でもよく登場するが、江戸に帰った後のエピソードをよく知らない。それもそのはず、江戸に帰った彼はすぐに暗殺されたのであった。

 丹波は実に好演である。彼のキッとした目付きとその立ち姿はまさに八郎そのものである。最近は松竹の時代劇をいくつか観てきたが、そのなかでも最も丹波にふさわしい役であると思う。

●志士たち

 本作は清河を主軸にした群像劇ともとれる。清河の主観的描写をほとんどとらず、仲間の一人・石坂や幕府の剣客・佐々木のそれが描かれる。どうしても清河の内面を描くときは伝聞・回想形式であった。

 これが非常に物語を分かりにくくしている。付いていけないのではなくて、のめり込めないのである。面白さを感じないというか・・・。オープニングや佐々木視点のシーンなど独特な演出が楽しく、期待したのだが・・・。なお、原作は面白い。名文とは言わないが、司馬の文章というのは割と気持ちよく読めるもので、本作の原作もそうである。

 清河の周りに現れる志士たちの顔ぶれが面白い。思想を同じくする山岡鉄太郎(後の山岡鉄舟。穗積隆信)、千葉道場でともに剣を交えたであろう坂本龍馬、浪士組から脱退する芹沢鴨、暗殺を行う佐々木唯三郎・・・。清河を語る上で外せない人物たちであるが、よく集めたなという気持ちになる。手塚治虫の『陽だまりの樹』を思い出した。『陽だまりの樹』も同時代を扱った群像劇で、様々な人物が登場するが、手塚の伏線貼りは見事で、割と後半に登場する人物が序盤から何でもない風に描かれたりする。本作でも佐々木唯三郎や坂本龍馬はまだ活躍をする前であり、活躍の様は描かれない(清河暗殺は唯三郎の活躍場面だが)。

 佐々木唯三郎は清河暗殺後、新選組と共に京都の不逞浪士を取り締まる、京都見廻組組頭となり、その部下を引き連れて坂本龍馬中岡慎太郎を暗殺した(といわれる)。鳥羽伏見の戦いで腰に銃弾を貰い、敗走中に死去した。

 佐々木には『七人の侍』で勝四郎を演じた木村を当てている。木村が暗殺に執念を燃やし、変わっていく様が描かれてよい。ただ、それでも後の佐々木の行動を見るともっと眼が血走ったような男を役に充てても良かったのではないかと思う。

 群像劇と言ってもピックアップされた登場人物には物語のなかで決着をつけなければならない。それは、その人物の死までを描けと言うことではない。主軸の人物・事件を通して変化した様を描けばよい。この作品にはしっくりとくるそれが足りない気がするのだ。

 

鑑賞:2013年6月28日

文責:苺畑二十郎 2013年6月29日