積読層の知質学的研究

映画と地質学と面白いことにおぼれる日々。

ぼくの「剱岳 点の記」―壮大な自然と挑戦者たち

No.23 剱岳 点の記 ★★★★☆

監督:木村大作

原作:新田次郎剱岳<点の記>』

脚本:木村大作/菊池淳夫/宮村敏正

音楽:池辺晋一郎

出演:浅野忠信香川照之松田龍平仲村トオル/夏八木薫/役所広司

公開:2009年6月20日

上映時間:139分

あらすじ

明治三十九年―日露戦争に勝利した頃、陸軍測量部は日本地図を完成させるため、最後の空白地帯である剱岳の調査を計画する。剱岳は急峻で険しい山であり、地元の信仰では死の山とまで呼ばれていた。この前人未到の山へ挑戦することになったのは測量官・柴崎芳太郎(浅野)である。陸軍のメンツをかけて、同じく剱岳に挑もうとする日本山岳会・小島烏水(仲村)らに負けてはならない。柴崎は案内役・宇治長次郎(香川)とともに山へ向かう。・・・それぞれが様々な思いを抱きながら、ただ一点の頂上を目指して彼らは挑む。

 ●主演「剱岳」―美しく、恐ろしいその姿

 測地学、という学問をご存じだろうか?その名の通り、地球を測る学問である。人類は様々な知恵や知識を蓄えてきたが、文明が誕生した最初期に測量の技術が生まれた。地球全周を計算を持って示した地理学者エラトステネスが活躍したのは前3世紀である。技術は時代と共に進歩し、より正確な地図が作られるようになった。

 日本における測地学の開祖はなんといっても伊能忠敬であろう。彼は商人であったが天文学などに明るく、ついに壮年期をむかえてから全国測量の旅に出た。彼の制作した日本全図がほぼ狂いのないことは有名である。

 維新後、国内の地勢・地形に関する情報を集めたのは陸軍であった。これは国内で戦闘などが起きた場合に地形などを知らなければ作戦ひとつ立てられないからである。測量部という部署がこれを担当し、三角点を無数に立てて測量を行った。現在の国土地理院の前身である。

 原作を執筆した新田次郎は山を愛した男としても知られている。僕も彼の『聖職の碑』、『八甲田山 死の彷徨』を読んだ。そこには山の色んな表情が描かれている。時には友好的であり、穏やかで美しい一面を見せ、また時には荒々しさや恐ろしさなど厳しい一面が表れる。そして、人間の思い上がりや不条理といったとても小さなものがそこで展開されるのである。大きな自然に対してなんと人間の小さいことか。しかし、人間は強い。その意志や誇り高き精神というものは輝いて見える時もある。新田は山を主題にしても、そういった人の姿を描くことも決して忘れない。

 この新田らしい山と人の描き方はみごとにスクリーンに再現された(僕は銀幕で見ていないけどね)。本作の主演は「剱岳」だ。やはり本物の山の表情というのは凄い。断崖絶壁の岩肌や紅葉を迎えた木々の美しさと対照的な雪崩や横殴りの吹雪の描写。まったく同じ山とは思えない。表情はころころと変わりゆく。そこで目的の為に戦う挑戦者たち。その姿は山同様に美しい。

●豪華キャストなんだが・・・

 出演陣も近年の作品で言えば、確かに豪華キャストなのかもしれない。香川や小澤征悦、測量隊の人夫たちの演技は素晴らしい。しかし、なんだか妙な空気を感じる演技をする役者もいる。それは浅野と松田である。ラストまで観てくるとそうでもないが、前半の浅野のぎこちない演技(主に会話がぼそぼそなところ)にとても違和感を感じた。主人公なのに・・・。そして、松田であるが彼って感情が読み取りにくい演技が多い。はじめ嫌っていた人夫たちをいつしか仲間と思うようになる・・・という感情の変化もいまいち分かりにくい。また、この二人に加え宮崎あおいの3人の台詞回しが明治の時代人ぽく無いような気がする。でも最後まで見ちゃうと違和感おさまっちゃうんだよな~他に合うキャストも考えにくいし(特に浅野はなんだかんだではまり役なのかな)。

●仲間たち

 剱岳の山頂と測量点からお互いを仲間と認め合う測量隊と山岳会。この描写が実に熱い。胸にこみ上げてくるものがある。同じ強敵に挑んだ者同士だから通じ合うものがあるのだ。

 そしてそれは本作のスタッフ・キャストについても同様である。本作はCGや空撮に頼らず、しかも当時の足跡をたどるように撮影された。スタッフもキャストもなく、一本の映画を創るために山に挑んだのだ。苦行のような撮影だったという。エンディングのスタッフロールも、役職の肩書きをすべて取り払い、「仲間たち」としてすべての人が表示される。上も下もなく、全員が仲間たちなのだ。仲間たちで挑み、作り上げたひとつの作品なのだ。これが映画の真実の姿であるように思う。監督やキャストが目立ちがちであるが、その実、様々な「仲間たち」が一所懸命に挑み、出来上がるものが映画なのである。作中の地図や測量というものは映画と同義であろう。そう考えれば実に熱い作品だった。

 是非、スクリーンで堪能したい映画である。

 

鑑賞:2013年6月21日

文責:苺畑二十郎 2013年6月22日