積読層の知質学的研究

歩いて、見て、知って、感じたことども。

ぼくの「犬神家の一族」―幻想的に描き出される日本的殺人事件

No.18 犬神家の一族 ★★★★☆

監督:市川崑

原作:横溝正史

脚本:長田紀生/日高真也/市川崑

音楽:大野雄二

出演:石坂浩二/島田陽子/あおい輝彦高峰三枝子大滝秀治横溝正史(特別出演)/三国連太郎/角川春樹

公開:1976年11月13日

上映時間:145分

あらすじ

信州那須の製薬王・犬神佐兵衛が死んだ。その遺言は親族全員が集まらなければ公開されないという。この席にいないのはただ一人、長女の子供である佐清だけであった。さて、金田一耕助も那須の町に現れる。それは犬神家お抱えの弁護士事務所に勤める青年からの依頼のためであった。ところが、青年は金田一に会う前に変死を遂げる。そして、犬神家のほうでは佐清が復員したという。弁護士に頼まれて金田一も遺言状公開の席に参加するが、そこに現れた不気味な佐清の姿は、これから先の不安を予感させるのであった。

 ●記念すべき(?)角川映画第一号

 初めに言っておくと、僕は角川映画があまり好きではない(笑)角川は出版社を有しているために宣伝能力がずば抜けて高い。予告編なども壮大で、実に期待させる。そして、実際に作品を見るとたしかに莫大な製作費を用いているのは分かるのだが、いかんせんお話が面白くない。なんだか間延びした展開をする映画もちらほらある。つまり、期待しただけの中身が無いということだ(つまらないというなら自分で作ってみろ、という議論はなしです。あれは意味がない。生みの苦しみはよく分かる。しかし、観客としての評価はまた別のものであって良いはず)。

 その作品群のなかにあって、この『犬神家の一族』は第一作ということもあってか、気合を込めて製作されている。すごく面白いのである。2時間半の間、画面に釘付けであった。事件そのものの展開も目が離せなくなるが、金田一とホテル女中の掛け合いなどには思わず笑ってしまう。そして、ラストは哀しい愛のドラマが待っている・・・。

 これほど面白い映画を見たときに言えることはただ一つ!原作読んでいないでよかった!!

●幻想的な画面で繰り広げられる日本的殺人事件

 市川崑監督の作品はこれが初めてなのでなんとも言えないが、この作品では幻想的な演出が多い。特に、光のコントラストを上手く使った演出だ。描かれる人物にのみライトが当たり、周囲は真っ暗になる。これは舞台演劇のように見える。物語が箱庭的な世界で進行しているような感じにも受け取れる。また、回想の場面では画面の色を飛ばして、ネガにしたような映像にしたり、ザラザラとした凹凸のある画面にすることで、シーンごとの妖しさ、恐ろしさが引き立っている。しかし、決して恐ろしいだけの画面にはならないのである。古い街並みは郷愁を誘い、なんとなく切なさが漂う。これがきわどいシーンも幻想的に見えるような魔法をかけているのかどうかは知らないが、美しく感じる時もあるのだ。

 ストーリー自体も哀しさや切なさが漂うため、この幻想的な魔法に後押しをしている(後押しされているのかも)。また、この事件の顛末が真に日本的である。どろどろとした愛の物語であるからだ。父親と娘たち、父親と愛人、最愛の人が人妻・・・哀しいほどに不幸な運命を背負った人々の、愛ゆえの物語とも言えよう。僕は少しベクトルが違うのだが、『源氏物語』を思い出した。あれもどろどろとした愛の物語である。不貞を犯した光源氏に因果応報で、自分のやった仕打ちがそのまま返ってくるという描写もある。もし、光源氏そのものに惹かれているわけではなく、物語そのものに惹かれてのベストセラーだとしたら、日本人は古来よりこういったどろどろした愛の物語が好きなのかもしれない。そういった意味では、本作も日本的な殺人事件である。陰湿な復讐劇も日本っぽい?

●テーマソングが美しすぎる

 作曲は大野雄二氏で、『ルパン三世』などを手掛けた。確かに聴いたことがあるような旋律もあるが、この「愛のバラード」は素晴らしい。物語世界の哀しさ、切なさと共生している愛をメロディでみごとに表現している。僕は個人的に、音楽の良い映画は必ず成功すると確信している。本作もその一つではないだろうか。

 

石坂浩二が素敵!

 僕は原作を読んでいないことを先に述べたが、シリーズの1作目『八つ墓村』は読んだことがある。そこでは金田一と村の青年の二人主人公という感じで、金田一は割と狂言回し的な立ち位置であった。本作でも、本物の佐清が現れてからは佐清がメインな部分も多少あるが(ネタバレゆえ反転)、金田一が主人公である!かっこいい!しかも石坂浩二が若くてイケメンではないか!!年を召したダンディな石坂も素敵だが、若くてイケメンな石坂も素敵である。これはこのシリーズを見るのが楽しみになってきた。原作も読んでみたいと思う。

 ラストシーンまでなにか切なさがふわりと溶け込んでいる映画。しかし、また見てみたいと思ってしまうのであった・・・。

 

鑑賞:2013年6月10日

文責:苺畑二十郎 2013年6月10日